若年性認知症と天才の脳

2018年1月24日

    2018122日、大阪市北区にある"ホテルグランヴィア大阪"で、「第61回大阪産業医学研究会」があり、110名が出席した。

午後630分、大阪大学精神科の池田学教授による特別講演「働く人たちのメンタルヘルスーうつ病と若年性認知症について」があった。

池田学教授は「企業で長期休職している社員の半数は、うつ病や認知症などメンタルヘルスだ。若年性認知症(65歳未満)の多くは、アルツハイマー型認知症と前頭側頭型認知症(ピック病)で、高齢者に見られるレビー小体型認知症は少ない。

一流会社の役員が、コンビニで少額の万引きをしてつかまるのは、前頭側頭型認知症のことが多い。前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉など行動を抑制する部分が障害される。病識の欠如、脱抑制・反社会的行動が特徴的で、発症年齢は65歳までの人が多い。

最近、よくテレビに出てくるゴミ屋敷は、前頭側頭型認知症のことが多い。高速道路を逆行する認知症は、アルツハイマー型認知症では早く気付くので遠くまで行かないが、前頭側頭型認知症では、10km以上逆行する場合もある。

産業医が、診断のために家族や本人に確認するポイントは、社会的なマナーの低下(電車待ちの列に割り込む、葬式中に大声で笑う)はないかなど、よく聞くことだ。前頭側頭型認知症は難病に指定されており、疑いがあれば精神科認知症専門外来に紹介するとよい。若年性認知症の診断は、高齢者認知症と違ってCTMRIではわかりにくいが、SPECTで診断できる」と話された。

 

午後8時から懇親会があり、松澤佑次大阪産業医学研究会前会長は「今日は、記憶力が低下する認知症の話だったが、天才的な記憶力を持つ人に、和歌山県田辺市出身の南方熊楠がいる。蔵書家の家で数冊本を読み、自宅に帰って記憶していた文章を書写していた。

南方熊楠の脳は、阪大医学部に保存されている。熊楠自身が"後世の人に、自分の驚異的な記憶力がどこから来ているのか脳を調べて欲しい"と希望した。国立科学博物館の"南方熊楠生誕150周年記念企画展"に行くと、私が新聞に書いた記事"南方熊楠は、アスペルガー症候群だった?"が展示してあった」と挨拶された。

後輩医師に「本を丸暗記できるのは、サヴァン症候群だったのではないか。ニュートン(20142月号)に"天才の脳"の特集があり、サヴァンが載っている。サヴァンは右脳が異常に発達している」と話すと、後輩医師は「サヴァンだと、あんなに社会的な活動ができなかったのではないか。アスペルガーだと思う。・・アインシュタインの脳も残っている」と言う。

「アインシュタインの脳は、前頭葉の皺が多く、脳梁(左右の大脳半球をつなぐ神経の束)が厚かった」と話すと、女性後輩医師は「南方熊楠は、いわゆるギフテッドと呼ばれる人ですよね。ビル・ゲイツのようにアメリカだったら成功するが、今の日本だったら排除される人ですよね。(熊楠は)昔の時代に生まれてよかった」と言う。脳はまだ謎に満ちた臓器で、みんな興味を持っている。

前頭側頭型認知症など若年性認知症は、家族にとって負担になるだけでなく、会社や国にとっても大きな損失だ。治療と予防法の確立が待たれる。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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