劇症1型糖尿病・ニボルマブと禁煙宣言

2016年5月21日

   201651921日、京都国際会議場で第59回日本糖尿病学会(稲垣暢也会長)が開催され、15000人が参加した。

518日午後4時、ホテルグランヴィア京都で評議員会があった。

学会からの重要なお知らせとして「ニボルマブ(オプシーボ)が4500名に使用され、高い確率で劇症1型糖尿病の副作用が発生している。関連する4学会(日本皮膚学会・日本呼吸器学会・日本肺癌学会・日本臨床腫瘍学会)と連携し、広く注意勧告を行う」と報告された。

ニボルマブは、13500万円かかる高額な抗がん薬で、悪性黒色腫に加え、肺がん(小細胞癌を除く)が保険適応になった。"国民皆保険の危機"と大きな問題となっている(メタボ教室第594段「抗がん薬の落とし穴」)。

 

2020年に開催される東京オリンピックに向け、受動喫煙規制の法制化が報じられていることから、日本糖尿病学会でも「禁煙宣言」をすることとなった。

具体的には、1)日本糖尿病学会・糖尿病学の進歩開催時の会場「敷地内禁煙」を次回から実施する、2)学会員一人一人が禁煙を目指す、3)エビデンスに基づいて、糖尿病の発症や合併症に及ぼす喫煙の害、禁煙の効果について広報する、4)啓発活動としてスライドなどのツールを作成する、の4つの提案がなされた。

神奈川県の評議員から「禁煙宣言をするのはいいが、JT(日本たばこ産業)が協賛に入っているのは問題ではないか」と鋭い質問があった。理事は「JTはタバコだけを作っているのではなく、糖尿病薬を開発しているので問題はない」と答えられた。

JTOBから「JTもタバコが健康に悪いと思っており、食品・飲料・薬剤など事業を多角化している。タバコ値上げは、財務省とタバコ生産地の国会議員を納得させるとよい」とアドバイスをもらったことがある(メタボ教室第45段「たばこ税依存社会2」)。

 

「喫煙者を減少させる最も有効な方法は、タバコの価格を上げることだ」ということは、世界共通の認識となっている(メタボ教室第252段「USC同窓会台北」)。保健指導でも、運動療法や食事療法に比べ、禁煙は非常に難しい。

タバコが値上げされた時、日曜日夕方の報道番組で、コメンテーターが「これは財務省の陰謀ですよ。税収を増やそうとしている」とコメントしていたが、タバコ値上げは阪大2内のOBが、総力をあげて勝ち取ったものだ。記者会見で財務大臣は「タバコ値上げは、国民の健康のためです」と正直に話されていた。

厚生労働大臣から財務省に働きかけてもらったが、「タバコを値上げすると一時的には増収になるが、長期的には喫煙者が減少して税収が落ちる」と断られた。財務副大臣に頼み、ようやく実現した。「タバコが値上げされたのは、財務副大臣の尽力と、タバコ生産地の国会議員の力が落ちたためだ」と、私は推測した。

高額医療で話題となっている抗がん薬のニボルマブは、高頻度に劇症1型糖尿病を起こすので注意を要する。禁煙は、個人に働きかけても難しい。「タバコの価格をあげるよう」国に働きかけることが必要だ。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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