「二つの満腹中枢」と究極の肥満治療法

2015年2月16日

  2015212日、大阪市天王寺区上六にあるシェラトン都ホテル大阪で「動脈硬化予防・治療の検討会」があった。

午後745分から1時間、「肥満のサイエンスー肥満症の診断・治療から疫学まで」の特別講演をした。

私は「肥満は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることによって起こる。摂食は、脳の視床下部にある食欲中枢によってコントロールされている。空腹を感じる空腹中枢(LH:外側野)を電気破壊すると、摂食量が減りやせる。満腹を感じる満腹中枢はVMH(腹内側核)とPVN(室旁核)の二つ 表示があり、どちらかの満腹中枢を電気破壊すると摂食量は増え太る」と話した。

会場から「私の友人は阪大の肥満外来に行き、入院して食事と運動で減量に成功したが、リバウンドした。リバウンドをしない治療法はあるのか」と厳しい質問があった。

私は「阪大に入院した人は全員減量に成功したが、1020年後の追跡調査でリバウンドがなく減量しつづけたのは、3分の1しかなかった。高脂肪食や甘いものなど食べ物への依存は、コカインやニコチンへの依存と同じように強い。食欲を抑えて減量を維持することは難しい」と答えた。

 

午後910分から懇親会があった。大学時代からの親友の福並正剛君 表示が「大阪府立急性期・総合医療センターでは、パーキンソン病の治療として脳深部刺激療法をしている。視床下部の満腹中枢を刺激したら、食欲が抑えられ、やせるのではないか」と言う。

空腹中枢(LH)を破壊すると、体重が減少する(ルピアン 表示、徳永他:Physiol Behav 1986)。脳の電気破壊は不可逆性の変化で、ヒトでは人道的にできないと諦めていて、福並君の発想は考えたこともなかった。やはり、福並君は天才だった(メタボ教室第41段「創造力」)。

 

脳に二つの満腹中枢があることは、毎日新聞1988818日の朝刊社会面 表示に大きく掲載された。PVNを破壊しても、VMHを破壊した時と同じように摂食量が増え、著しい肥満になる 表示。しかし、行動パターンは異なり、VMHラットでは日内リズムがなくなり1日中食べるのに対し、PVNラットでは普通のラットと同じように暗期に食べる 表示(徳永他:Am J Physiol 1986 表示)。

運動もVMHラットはものぐさでケージの端に1日中座り、あまり動かないのに対し、PVNラットは普通のラットと同じように動き回る 表示(徳永他:Brain Res Bull 1991 表示) VMHラットは凶暴だが、PVNラットは普通だ。

 

PVNにピンポイントで電極を入れ、朝昼夕必要十分量の食事をし、食べ終わると同時に皮下に埋めた電池から電気刺激を与えると、空腹感を感じなくなりやせる可能性がある。また、空腹感が強くなった時だけ、スイッチを入れて満腹中枢を刺激するようにしてもよい。

高度肥満者の減量・持続は難しい。脳の視床下部にある満腹中枢の一つPVN(室旁核)を刺激活性化することは、日内リズム・運動量・情緒に影響を与えることなく減量でき、究極の肥満治療法になるかもしれない。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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