褐色脂肪・iPS細胞と肥満の治療

2012年10月17日

    20121011,12日、グランヴィアホテル京都で、第33回日本肥満学会(河田照雄会長)が開催された。

 

1012日午後010分、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の梶村真吾氏による教育セミナー「褐色脂肪の分化・発生機構と肥満治療への可能性」があり、座長は斉藤昌之天使大学教授がされた。

ここ数年、褐色脂肪が注目されるようになったのは、ヒト成人でも褐色脂肪が存在し、褐色脂肪の起源が明らかになってきたからだ。脂肪細胞には皮下脂肪・内臓脂肪など"白色脂肪"と、ミトコンドリアを多く含む"褐色脂肪"の2種類の脂肪細胞がある。白色脂肪がエネルギーの貯蔵庫として機能するのに対し、褐色脂肪は熱産生を亢進して体温を保持し、エネルギーを消費する。

 

梶村氏は、褐色脂肪には胎児期から既にある"既存型"と寒冷刺激などの環境要因によって白色脂肪から分化誘導される"誘導型"があること、既存型褐色脂肪は骨格筋細胞と同じ前駆細胞に由来することを報告している(Nature 2009)。

梶村氏は「50gの褐色脂肪で、4㎏の白色脂肪を燃焼させることができる。現在ある肥満治療薬は食欲抑制剤・脂肪吸収阻害剤などエネルギー摂取を減少させるものだが、これからは褐色脂肪の熱産生を亢進させて、エネルギー消費を増大させる治療薬ができるかもしれない」と述べられた。

 

座長をされた斉藤先生は、PET/CTを用い、ヒト成人において寒冷刺激で褐色脂肪が活性化することを明らかにされている(Int J Obes 2007)。褐色脂肪は熱産生のため新生児では存在するが、骨格筋が発達した成人では消失すると考えられていた。

斉藤先生はブレイ門下の先輩で、私も米国USC時代、褐色脂肪の研究をしていた。VMH(視床下部腹内側核:満腹中枢)を破壊したラットでは褐色脂肪の活性が低下し(Am J Physiol 1987)、LH(外側野:摂食中枢)を破壊したラットでは褐色脂肪の活性が亢進していた。

 

iPS細胞を作製した山中伸弥教授(メタボ教室第139段「人工多能性幹細胞」)が、107日ノーベル医学・生理学賞を受賞された。肥満の分野でも、iPS細胞を用いた研究が始まっている。

YIA(若手研究奨励賞)に国立国際医療センターの西尾美和子氏「ヒトES/iPS 細胞からの機能的褐色脂肪細胞の分化誘導」が選ばれた。ヒトiPS細胞から、褐色脂肪細胞を高純度に作製することに成功し、マウスへの移植実験により、熱産生のみならず耐糖能も改善したという。

iPS細胞を用いた褐色脂肪の臨床応用が確立されると、肥満症、メタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常症を減少させる世界が見えてくる。iPS細胞による肥満の治療が期待される。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
目でみる臨床栄養学 UPDATE
メタボリックシンドローム

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