メタボリック・サージェリーと第45回糖尿病学の進歩

2010年12月 2日

 201121819日、福岡国際会議場で第45回糖尿病学の進歩(山田研太郎会長)が開催され、「肥満症の臨床と治療の展望」のレクチャーをする。 

会長の山田研太郎久留米大学内分泌代謝内科教授は、大阪大学第2内科出身で、私の3年後輩になる。チェッカーズの藤井フミヤが結婚式を挙げた萃香園に宿泊し、久留米ロータリークラブで「肥満と標準体重」、久留米・佐賀糖尿病臨床研究会で「肥満症とマルチプルリスクファクター症候群」の講演をしたことがある。

久留米大学の研究室に行った後、甲冑がたくさん飾ってある柳川御花を案内してもらい、柳川うなぎセイロ蒸しを食べた。有明海の泥にまみれたムツゴロウが印象的だった。

 

肥満症の治療は食事療法、運動療法が基本となる。薬物療法は、現在食欲抑制剤のマジンドールのみが認可されている。食欲抑制剤のシブトラミン、脂肪吸収阻害剤などが開発中である。

世界的にみると現在、最も進歩しつつあるのは外科療法で、メタボリック・サージェリーと呼ばれ、2008年には年間34万人に施行されている。91%が内視鏡手術で、術式は胃バイパス術49%、胃バンディング術42%、スリーブ状胃切除術5%となっており、欧米では、最も効果のある2型糖尿病の治療法だとされている。

 

日本では千葉大学の川村功先生が肥満外科療法のパイオニアで、1982年に第1例目を施行された。大阪大学でも1980年に検討したが、当時は死亡率も高く、リスクが大きいと見送られた。第1例目を行うことは、大変勇気のいることだ。

小腸上部を食事が通過しない術式(胃バイパス術)が通過する術式(胃バンディング術)に比べ、糖尿病改善率が高くなっている。機序の一つとして、摂取食物が速く小腸下部に到達し、GLP-1の分泌が高まることが考えられている。

2009年米国糖尿病協会(ADA)はBMI35以上で内科的治療に難渋する糖尿病患者に対し、外科治療を考慮することを勧める声明を出している。インドやブラジルでは、標準体重以下のBMI2022でも糖尿病外科手術が行われているという。

 

先月1113日、日本糖尿病学会地方会の座長を終えると、医療ツーリズムの人が私を待っておられた。「胃バイパス術などの糖尿病外科手術はどうか。2008年の米国の糖尿病外科手術は22万件と乳癌手術20万件を上回っている。米国では、1300万円で、単純計算でも6600億円の巨大な市場になっている。・・日本は医師不足で難しいかもしれない」とアドバイスした。

米国では肥満・糖尿病外科医が激増しているという。日本でも今後、増加するのだろうか。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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