環太平洋経済連携協定と医師不足

2010年11月20日

20101113日、大阪国際会議場で開催された第47回日本糖尿病学会近畿地方会で、TPP(環太平洋経済戦略的連携協定)が話題になった。

TPP(トランス・パシフィック・パートナーシップ)は、加盟国間のサービス、人の認証、貿易などの面で整合をはかり、関税などの障壁を撤廃しようとするものだ。例外や聖域を設けず、フェアに国と国との交流を図ろうとしている

 

病院長が「農業だけでなく、看護師さんをTPPに入れることも検討されている。医師にTPPが完全導入されると、その国で医師免許を取得した人が日本で医療を行えるようになる。海外には技術レベルの高い医師がたくさんおり、TPPを導入すると日本の医師不足は一気に解消される」と言われた。

TPPは農業だけの遠い問題だと思っていたが、急に身近な問題になった。病院勤務医は「医師の自由化で海外から医師が来ても、日本語が話せないと、患者さんとコミュニケーションが取りにくいのではないか」「優秀な日本の医者は、高給で先端医療のできる海外の病院に行き、日本の一般病院が手薄になるのではないか」と言う。

 

1115日、銀行OBTPPと医師の自由化について話をした。銀行OBは「数年前までは公認会計士に仕事がたくさんあったが、今は2000人の新しい公認会計士のうち、700人しか就職口がない」と言われた。公認会計士も弁護士同様、人数が増えすぎて大変なようだ。

 

1117日、公認会計士の友人にメールすると「弁護士も会計士も、制度を作る側は数を増やしても質に変化は生じないと考えた。しかし、数が増え、昔のようなステータスを保てなくなってきている。これは実は全ての資格を持つ職業にあてはまる現実だ」と返事がきた。

 

1120日、江坂からの仕事帰り、尼崎市にある近松公園に行った。ノムラモミジは紅くなく、まだ緑色だった。高齢男性達が日だまりの中、いつものように池の前で将棋や囲碁をやっている。木陰に入るとひんやりとして、チュンチュン、カーカーと鳥の声が聞こえてくる。

公園の木のベンチに座って、医師不足について考えた。大学新卒でも就職口がない時代になっている。医師の国際間の移動もボーダレスになると、公認会計士や弁護士のように過剰になるかもしれない。質を下げないで過不足なく医師を増やし、しかも偏在がないようにしなくてはならない。

これから医師をどういう方法で、どれだけ増やすのか。医師不足の解決方法を見出すには、世界の経済・政治情勢なども考慮し、医師の自由化についても十分議論をする必要があると思った。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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