米国医療改革と雇用・景気対策

2009年9月17日

    2009912日、オバマ政権の医療保険改革に反対する10万人規模のデモが、首都ワシントンで行われた。 

オバマ大統領も、ヒラリー・クリントンも米国イリノイ州出身だ。以前、イリノイ州シカゴで国際動脈硬化学会があった時、留学していた大阪大学第2内科後輩の乾由明君に科学産業博物館、シカゴ大学、オークパークなど案内してもらった。夜はシカゴシンフォニーやジャズライブを聴きに行った。

 

914日、米国イリノイ州在住の人と話をした。「イリノイ州はイリノイ・パンプキンというぐらい、でっぷり肥った人が多い。肥満の原因は、食べる量が半端ではなく、車社会で動かないことだ」と言う。

米国医療保険改革について聞くと、「オバマ大統領の支持率は皆保険制度で急落している。米国では保険に入っていない人が多く、一般の米国人は『どうして自分たちが、貧しい人たちの医療費を払わなくてはならないのか』と考えているからだ」と答えてくれた。

 

2008年の米国の医療費は介護費を含め215兆円(23786億ドル)で、GDPに占める割合が16.6%となっており、GDPに占める医療費の割合は日本の約2倍になる。

2008年末の米国雇用者数は13518万人と、1999年末の13053万人に比べ465万人増加している。その間、米国医療産業は1076万人から1348万人に272万人増加し、これは新規雇用の58%を占めている。米国の医療産業は日本と異なり、成長産業になっている。

2008年の1年間で米国の雇用者数が350万人減少したにもかかわらず、医療産業は36万人増加している。米国の医療産業は、不況の時でも景気に左右されない産業で、雇用・景気対策にもなっている。

 

2007年の米国政府歳出額は247兆円(27302億ドル)で、医療費は65兆円(7168億ドル)となっている。そのうち、39兆円(4338億ドル)が赤字、つまり税金から出ている。39兆円のうち、約半分の17兆円(1906億ドル)が貧困者医療に使われ、約3割の12兆円(1298億ドル)が65歳以上の高齢者医療に使われている。

 

皆保険制度にするためには57兆円(6336億ドル)の財源が必要になるという。オバマ大統領はその財源を"高所得者への税優遇廃止"と"医療の効率化(ムダを無くす)"で捻出するという。高所得者を年収677万円(7.5万ドル)以上とすると、富める米国人1983万人が1人当たり52万円を貧しい米国人のために出すだろうか。

私はオバマ大統領を応援しているが、限られた財源の中で全ての人に高度医療を実施するのは難しいのではないだろうか。

 

日本は現在、米国の半分のGDP比医療費で皆保険制度を維持している。高齢化社会を迎え、国民の覚悟と助け合いの精神がないと、将来日本も皆保険制度で高度医療を続けるのは難しくなるだろう。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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