桃の季節とメタボリックシンドローム

2009年4月 2日

    2009321日雨、上海市郊外の水郷の街「朱家角」に行った。

 

上海の高速道路の横には、白い桃の花が咲き、畑には黄色い菜の花が咲いていた。江南地方にある水郷は雨の日か、曇りの日の方が風情があっていいという。明清時代の街並みが運河沿いに伸びている。手漕ぎの小舟に乗り遊覧をした。運河の周りの桃の木には、濃いピンクの桃の花が咲いていた。中国で桃の花は、日本の桜の花にあたるのか。

 

古い街並みの小さな書店に入った。日本人作家の本は村上春樹の「東京奇譚集」と渡辺純一、北川悦吏子の3冊が中国語に翻訳されてあった。北川悦吏子は「ロングバケーション」など恋愛トレンディドラマの脚本家と思っていたが、中国の田舎町でも読者がいる作家となっていた。

 

2009322日、雨と風が強くホテルにいた。上海浦東空港に向かう橋の上から、黄浦江の両岸に建設中の万博会場が見えた。日本に帰ると、テレビのニュースで太っていることで有名なタレントが東京マラソン中、意識不明となり病院に運ばれたことを伝えていた。一時心肺停止となり、原因は心筋梗塞による心室細動だった。

 

同じように太っていてテレビで人気者になり、心不全で急死した若い女性患者さんがいた。入院して40kgの減量に成功し肥満外来に通院していたが、来院しなくなった。テレビの素人参加番組で人気者になっていた。

最後の診察から11ヶ月後、母親から「娘が急死した。病院に通院したかったが、体重が60kg増加し、叱られてはと思い行けなかった。生前、入院中受け持ちをしていた研修医に会いたがっていた」と連絡があった。

亡くなって8日後の日曜日、研修医と2人で自宅にお線香をあげに行った。「わざわざ来ていただき、娘も喜んでいると思います。2日前、娘が待っていた大手プロダクションからの合格通知が来たんですよ」と言われた。仏前には合格の通知が置いてあった。

彼女の友人が応募してテレビ番組に出演し、桃のようにふっくらと太った彼女は人気者になった。太れば太るほど人気がでる。無理をして食べたのだろう。廊下で座り込み、そのまま息絶えていたという。

 

太っていることに価値を見出した肥満者を減量させることは難しい。人気者であるため食べつづけ、太ることに価値を見出した者の悲劇は今もつづいている。

 

「有名でなくていい、お金持ちでなくていい、みんなから好かれなくていい、健康で平凡な生活が一番なのに」と還暦を迎えた私は思う。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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