教育委員会と肥満児対策

2009年1月25日

    2009121日、文部科学省は小学5年生と中学2年生対象の「全国体力テスト」結果を公表した。

 

122日の朝刊に「橋下知事"大阪どないなってんねん"全国テスト学力も体力も下位」の見出しで記事が載った。大阪府の体力は小5男子42位、女子43位、中2男子42位、女子39位と学力同様下位になっている。橋下大阪府知事は激怒し、教育委員会を非難している。本当に、市町村教育委員会だけが悪いのだろうか。

 

以前、ある市の教育委員会の人が「肥満児対策に協力してもらえないでしょうか」と訪ねて来られた。教育委員会の人は肥満児を減らしたいと話され、協力することにした。

対策の効果があったのか、どんな対策がよかったか知るには、今どのくらい肥満児がいるのか知る必要がある。各小・中学校における肥満児の頻度を調べてもらった。

教育委員会から届いた調査結果を見ると、肥満児がゼロと肥満児が1人の学校がある。他の学校の肥満児頻度は510%だった。どこの職場にもサボる人はいる。2つの学校の先生はサボっていると思った。

 

何日かして、教育委員会の人が来られ「こちらから頼んでおいて申し訳ないが、肥満児対策は諸事情でできなくなった」と言われた。

何故、肥満児対策が中止になったのか。現場の先生に直接会って話を聞き、真相が明らかになった。「私達大部分の先生は賛成したが、2人の先生が"肥満児のレッテルを貼られた子はいじめの対象となる"という理由で強硬に反対された。1人でも反対があったら、市全体の取り組みはできなくなる」と言われた。一理ある。

 

個人に対するハイリスクアプローチは難しいかもしれない。しかし、全体に対するポピュレーションアプローチは可能だ。建物の中だけでなく、朝礼の前に全校生徒で走ったり、昼の休憩時間は校庭で遊んだりして、自然の中で日本の四季を実感させる。児童にカロリー計算などの食育を行ったり、母親に料理教室を開いたりする、など智慧を出せばよい。

どこの職場にも1人か2人、何でも反対する人がいる。反対意見も役に立つが、1人の反対でも止めることになると、何も実行できなくなる。

 

大阪府南部にある市の教育委員会の人と、肥満児対策を行ったことがある。肥満児の母親や祖父母が間食を無制限に与えるなど、家庭の食育の問題もあった。同じ市内でも人口が密集した商業地区の学校の方が、郊外地区の学校より肥満児が多く地域の問題もあった。

 

肥満児対策は教育委員会、学校、家庭、地域すべてが協力して行う必要がある。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
目でみる臨床栄養学 UPDATE
メタボリックシンドローム

著作権について