笑いとメタボリックシンドローム

2007年10月10日
 2007年10月5日、第39回藤田学園医学会の特別講演「心と身体の関係を遺伝子で解く」をされる国際科学振興財団の村上和雄筑波大学名誉教授や、中野浩藤田保健衛生大学学長らと昼食をしながら1時間あまり話をした。

 村上和雄先生のことは分野が違うため、全く知らず初対面だった。京都大学農学部を卒業され、1983年に血圧をあげる酵素「レニン」の遺伝子を世界に先駆けて解析されている。遺伝子のうち2%しか働いておらず、残りの98%の遺伝子は働いていない。

 遺伝子のON/OFFは物理的因子(熱、運動)や化学的因子(栄養素、アルコール、喫煙)によってON/OFFされている。村上先生はネガティブな精神的ストレスやポジティブな因子(感動、喜び、感謝、信念)が遺伝子のON/OFFに関係していることを実証しようとされている。強い精神的ショックを受けると、老化遺伝子がONになり、一気に白髪になる可能性があるという。

 「今は嬉しい、楽しいなど陽性の感情の代表である"笑い"と遺伝子との関係を研究されている」と言われた。「私は肥満の研究をしており、ネズミの実験でVMHという脳の満腹中枢を破壊して太らせていた。VMHの下も同時に破壊された時、怒る凶暴なラットになった。VMHの下に怒りを抑える中枢があると思うが、笑いの中枢は脳のどこにあるのですか」と聞いた。笑いの中枢はどこにあるか、未だわかっていないそうだ。

 「笑うと血糖が下がって、糖尿病によいという話があるがどうなんですか」と聞くと、「お笑いの吉本興業と一緒に研究をしており、笑うと血糖が下がった」と言われる。2型糖尿病患者さんに、大学の先生の講義1時間受けてもらい血糖を測定、翌日漫才を1時間聞いてもらい血糖を測定した。漫才後の食後血糖は、講義後の食後血糖に比べ平均46mg/dl下がったそうだ。

 村上先生は、聖路加国際病院理事長の日野原重明先生と対談された。日野原先生は96歳の高齢にも関わらず、年100回以上の講演をされていたという。「人間はいつか必ず死ぬ時が来る。死を想い、今日一日を感謝して生きている。今の若い人は、人間は必ず死ぬということを考えて生きていない」と言われたそうだ。

 「日野原先生は日航ハイジャック事件に遭遇し、その時の心が老化を抑えるという遺伝子のスイッチをONにしたのかもしれない」と村上先生は言われる。

 私も一昨年インドで転倒骨折し、これからは悔いのない人生にしようと思った。その時の心の変化が、眠っていた遺伝子のスイッチをONにしたのかもしれない。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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