蝉しぐれとメタボリックシンドローム

2007年9月 6日
 2007年9月2日の朝刊1面に、「治療履歴データベース化ー厚労省などモデル事業実地へ」の記事が載っていた。厚生労働省、経済産業省、総務省は個人の健康情報をデータベース化する事業に乗り出す。

 自宅のパソコンでも、自分の健康情報が簡単に見られるようになる。平成20年度の概算要求でモデル事業に8億円が見込まれており、生涯にわたってデータを蓄積するという。 

 政府内では、個人の医療情報などを一括管理する社会保障カード導入の議論がされている。モデル事業を通じて得られたノウハウや問題点が、カード導入時利用できるだろう。情報漏れが無いようにすることが最低限必要だ。

 2007年1月、重鎮の方々に「メタボリックシンドロームが告げるもの」の講演をした。講演の後で「国は我々の財布の中を管理し、今度は体の中まで管理しようとしている」とある人が私に言われたのは、このことだったのかもしれない。

 2007年9月2日、広島から出てきた母と叔母が舞台を観たいというので、大阪道頓堀にある松竹座に「蝉しぐれ」を観に行った。藤沢周平の作品を読んだことはなく、蝉しぐれのストーリーも知らなかった。

 花道の横で観劇した。役者さんが全速力で花道を駆け抜けていく。顔にはうっすらと汗をにじませている人もいる。第1幕、牧文四郎の養父助左右衛門が世継ぎ騒動の犠牲となり、切腹した。罪人の息子となった文四郎が、養父の死体を荷車に乗せ引いて行く場面で、あちらこちらからすすり泣く声が聞こえた。

 最も盛り上がったのは、第3幕、養父の仇である里村左内の手下大勢と闘う場面だった。文四郎の里村への怨念と、愛するお福を守るため、必死で闘う文四郎の気迫が伝わる。片岡愛之助の熱い血潮の太刀さばきに、満場から拍手が沸いた。

 「蝉しぐれ」は現代社会によくある権力闘争、父と子、友情、恋愛というテーマを、時代劇という着物をまとって描いている。観客は高齢者が多い。若い人にはまだ権力の理不尽さや、父と子の心情がわからないかも知れない。片岡愛之助の父片岡秀太郎が、息子の初日舞台とあってか、開幕前から終了後も来客に挨拶をしていた。

 権力闘争の中で「礼儀正しい、欲のない、優しい人間がはじき出される」。文四郎のいる庄内藩だけでなく日本全国で、現在でもなおスターリン時代のような反対派に対する粛正が行われているようだ。権力を握った側には、手加減が必要だ。だが、権力闘争をしている人達は忙しくて、「蝉しぐれ」を観に行く余裕もない。

 今年の夏は、例年になく蝉が多かった。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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メタボリックシンドローム

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