温度計とメタボリックシンドローム

2007年8月22日
 2007年8月16日、埼玉県の熊谷市と岐阜県の多治見市では40.9度を記録し、74年ぶりに最高気温の記録を塗りかえた。

 昼食後、JR京都線沿いから女瀬川(にょぜがわ)土手を歩く。今年の暑さは尋常ではない。ズボンまで汗でびっしょりだ。クーラーの無い昭和20年代を想いだす。ランニングシャツ姿の人が、首を振る扇風機の前に集まったものだ。

 母は時々、私が幼かった頃の思い出話をする。「温度計の目盛りが30度を超えると暑いと言ったら、温度計を一生懸命フーフーと吹いて温度計の温度を下げようとしていた」と。温度計の温度を下げても涼しくはならない。

 温度計のような話は、今の世の中にもたくさんある。ある自治体病院の院長が以前「事務は売り上げ総額を問題にする。同じ成分で収益の多い薬より、価格の高い薬を採用する。おかしな話だ」と言われていた。収益を増やす手段として、自治体病院の目標設定を売り上げ増加にしたのではないだろうか。

 同じような事をある健康管理センターの友人が言っていた。「受診者を増やすため、人間ドックの単価を下げようと言う。パイは限られているので、単価を下げてもそんなに受診者が増えるとは思えない。事実値下げをしたら受診者は増えたが、売り上げも収益も減った。しかし、事務は『昨年より受診者が増えた』と上部組織に報告している」と。収益を増やす手段として、上部組織は受診者数を増やすことを目標にしていたのではないだろうか。

 荘子の言葉に「聖人の動作するや、必ずその之く所以(ゆくゆえん)とその為す所以とを察す」というのがある。「之く所以」とは目的で、「為す所以」とは手段という意味だ。しばしば、手段が目的になったりすることがある。この目的は何なのかを常に念頭に置くことが重要で、本末転倒となってはならない。

 厚生労働省は平成24年までの目標を健診実施率を健保80%・政管70%・国保65%、保健指導実施率を45%、メタボリックシンドロームの該当者・予備軍者の減少率を10%としている。特定健診・保健指導の目標はあくまでもメタボリックシンドロームを減少させ、心筋梗塞・脳梗塞・糖尿病・腎不全を減少させることが目的だ。

 温度計の目盛りを下げても涼しくはならない。受診率や保健指導実施率を上げることは、あくまで手段である。健康寿命を延伸させ、医療費の伸びを抑えることが目的だ。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
目でみる臨床栄養学 UPDATE
メタボリックシンドローム

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