異邦人とメタボリックシンドローム

2007年8月 9日
 2007年7月31日、健保連東京連合総会で健保連は平成18年度決算について「2000億円の黒字になる見通し」であることを公表した。特定健診・保健指導の財源は確保されつつあるのだろうか。財源のない政策は絵に描いた餅になる。

 2007年7月、東京で「特定健診・特定保健指導事業について」のパネルディスカッションがあった。厚生労働省の人は、メタボリックシンドロームとその予備軍に対しては「ハイリスクアプローチ」、不適切な生活習慣を持つ人に対しては「ポピュレーションアプローチ」の両方をすると言われた。

 予防医学には疾病を発症しやすい高いリスク(危険因子)を持つ人に集中して行う「高リスクアプローチ(解決法)」と、潜在的なリスクを持つ集団に対して行う「集団アプローチ」がある。集団アプローチの代表的なものは炭坑などでの塵肺に対する予防で、健診だけでは塵肺は減少しなかったが、職場環境を改善することによって塵肺は激減している。メタボリックシンドローム対策は保健指導だけでは難しく、社会環境の整備も必要だろう。

 ある健康管理センターでは巡回健診・保健指導を、平日は午後1時から午後7時まで、日曜日は午前9時から午後4時までされるという。これでメタボリックシンドローム対策の中心となる40~60歳男性が、受診しやすくなるだろう。

 保健指導は保健師・管理栄養士さんが毎回変わるより、同じ人が一貫して担当した方がよい効果がでるようだ。

 昼食後、摂津富田駅から高槻センターまで、JR線路沿いから女瀬川(にょぜがわ)沿いを歩く。約1kmの道のりは3mの道幅で舗装してあり、車両進入禁止だ。「JR各駅から半径1km以内に、車を気にしないですむ遊歩道を作ればポピュレーションアプローチになる」と歩きながら考える。

 高槻の夏は暑い。伊丹では12年間地下の食堂で昼食をし、四季を感じることはなかった。毎日賑々(にぎにぎ)しい蝉の声を聞き、今日は先週につづき蜻蛉(とんぼ)を見た。前方から蝶々の影が向かってくる。見上げると陽の光が強く目が開けられない。

 まぶしい太陽を見ていると、学生の時に読んだカミュの「異邦人」の中で、ムルソーが言ったことを思い出す「今日死のうと、5年後に死のうと、20年後に死のうと同じことだ。死は意味がない」。人の死は、死後に残された人々にとって意味があるので、その人自身にとっては何の意味も持たないのかもしれない。

 青春時代にはよく考えたものだ。生きているうちに何をすべきか。「友情でもいい、恋愛でもいい、創作でもいい、旅でもいい、仕事でもいい。惰性や欺瞞(ぎまん)のつきあいではなく、強烈な何かを残したい」と。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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メタボリックシンドローム

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