歌人ゆかりの街とメタボリックシンドローム

2007年6月26日
 2007年6月23日、「メタボリックシンドロームの概念と保健指導」講演のため、歌人ゆかりの街、長野県松本市に向かう。JAC2371便の2A席から見下ろす奥深い北アルプスの頂には雪が残り、山々に神が宿るという言い伝えもうなずける。

 松本空港は2度目だ。前回は尖石(とがりいし)遺跡の縄文のヴィーナスを見に行った。縄文のヴィーナスは4000~5000年前の土偶で、全長は27cm、重量は2.1kgあり我が国最古の国宝だ。安産や子孫の繁栄を祈る儀式に使われたと思われる。ヴィレンドルフのヴィーナスと異なり、大腿部から臀部にかけて脂肪が沈着し下半身肥満の典型例である。

 講演の前、松本の奥座敷浅間温泉を訪れた。竹久夢二、与謝野晶子、若山牧水ら文人墨客に親しまれ、正岡子規、伊藤左千夫がこの地で「アララギ派」を結成している。当日座長を務められた塩筑医師会理事、百瀬篤先生の祖父は若山牧水夫妻と懇意だったそうだ。

 正岡子規は「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」で有名で、雅号の子規とはホトトギスの異称で、血を吐くまで鳴くといわれるホトトギスに例えたものである。正岡子規を知ったのは1961年私が小学校6年生の時、父母姉と4人で愛媛県松山市に旅行した時だ。生まれて初めて飛行機に乗って広島空港から松山空港に飛んだ。松山では父の案内で、正岡子規や夏目漱石ゆかりの地を訪ねた。

 正岡子規は司馬遼太郎の「坂の上の雲」の主人公秋山好古(よしふる)の弟真之(さねゆき)の幼馴染みで、秋山真之はロシアのバルチック艦隊を破った東郷平八郎の参謀をしていた。緻密な戦略家で優れた文章家でもあった秋山真之を、東郷平八郎は「智謀如湧(ちぼうわくがごとし)」と評している。ヨーロッパ肥満学会でフィンランドのヘルシンキを訪れたとき、小さな酒場に入った。そこで出されたビールが東郷平八郎ビールだった。日本から遠く離れた北欧の街で、ロシア軍を破った日本人が英雄になっていた。

 松本市の相澤健康センターでは2007年1月から男性1446人、女性858人を積極的支援、動機づけ支援、情報提供に分け任意で保健指導を行っている。対象者との通信手段は電話60%、メール39%で、1ヶ月後の連絡状況は電話では返答有りが75%、メールでは返答有りが54%となっている。メールは気を遣わず手軽だが、すぐに返事が得られない。電話は声のトーンや話し方から相手の反応がわかるが、ほとんどの人が仕事中で手短になり時間をかけて相談にのれないなどのデメリットがあるという。

 歌人ゆかりの街松本では、2008年4月からのメタボリックシンドロームの概念を導入した保健指導が既に始まっている。我が国で男性の平均寿命が1位、女性が3位の長野県だけのことはある。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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メタボリックシンドローム

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