医師不足と自治体病院

2007年6月 8日
 2007年6月7日、大阪府泉大津市に「内臓脂肪型肥満とメタボリックシンドローム」の講演に行った。大阪大学時代の同級生、藤田富雄君が座長をしてくれた。

 同級生の飯田さよみさんも来てくれた。飯田さんは自治体病院の院長をしているが、隣接する3つの市の自治体病院が閉鎖となり、病院は大変だという。藤田君も自治体病院に勤務しているが、年々仕事量が増えて大変だという。

 友人が自治体病院の激務に耐えかねて開業したが、年収が少なく疲れた顔をしている。後輩も自治体病院の当直あけでも通常勤務という加重労働に耐えかねて開業したが、患者さんが少なく蒼い顔をしている。2人とも医師は聖職と考え、自治体病院に骨を埋める覚悟で勤務していた。都会での新規開業は厳しい。ある市では3軒開業医が夜逃げしたという。

 私も自治体病院を辞めた者の1人だ。外部からの医師が引き上げた分、誰かが救急医療をつづけなくてはならない。50歳を越えてからの週2回半日と月3回日曜日の救急医療はつらい。気管挿管と心臓マッサージを30分行った翌日、腰が痛くて歩けなくなり、退職を決意した。

 週刊誌によると勤務医師の平均年収は1080万で、日本の平均年収470万円に比べ2倍以上になっている。私のいた自治体病院医師の平均年収もほぼ同じだ。トップメーカーのT自動車804万円、M電気798万円、T薬品1030万円に比べれば高いが、M商事1334万円、N証券1083万円に比べれば安い。

 医師の給与はそう高くない。医師数を増やしても、終末期医療などに使っているお金を節約すれば、総医療費を増やさなくてもすむ。現場の医師に聞けば、どこで医療費を節約できるかわかる。

 OECDでは日本の医師数は1000人当たり2.0人と30カ国中26位で少ない。医師数が1000人当たり3.4人のドイツの失業率は5%、4.2人のイタリアの失業率は10%となっている。医療が高度化し、患者の要求が増している中、日本はまだまだ医師が足りない。国は国際的な視野を持ち、現場の医療に精通した人達の意見を聞くとよい。

 私の結論を言おう。第1に医師の絶対数が足りない。第2が医師の偏在だ。医療にはリスクがあることを、社会に理解してもらわなくてはならない。新卒後臨床研修制度などきっかけにすぎない。地方大学の定員を10名ばかり増員するぐらいでは焼け石に水だ。医学部定数の50%増しのような改革をしなければ、医師不足に到底対処できない。

 「日本の医療崩壊は目前だ。自治体病院の医師は声を出せ。声帯がつぶれても大きな声を出せ。国や国民にこの惨状を訴えろ」と私は念じる。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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