腹囲基準と内臓脂肪面積

2007年5月28日

 2007年5月23日ホテルメトロポリタン仙台で、日本糖尿病学会評議員の立食パーティーがあった。仙台の牛タンはどの店も旨いとは限らない。ホテルの牛タンは美味い。牛の舌の形をしている。

 炭火の上に20枚並べ、赤みが消える直前の牛タンを4枚重ね、左右対称に2つに切り、皿に移す。同じ動作を繰り返している。一枚一枚、目を離さないで焼いている。

 「この牛タンは柔らかくて、美味いですね」知り合いの先生に言われた。「外国から来た腹囲を基準に、内臓脂肪面積を決めたと思っている人がいますよ。合併症から内臓脂肪面積の基準を決め、内臓脂肪面積から腹囲の基準を決めたことを知らない人がいる」

 無理もない。2005年4月のメタボリックシンドローム診断基準の表は、腹囲の下に内臓脂肪面積が記載してある。メタボリックシンドロームはカタカナだから外国から来たと思っている。最初の内臓脂肪蓄積の基準は25年前、1982年の内臓脂肪面積200平方センチ以上だ(徳永、松澤他:第3回肥満研究会記録p130、1982)。今の研修医が生まれた頃にできた。その後、変遷していった。

 腹囲についてはWHO(世界保健機関)が1997年、BMI30を基盤とした男性102cm、女性88cmの基準を出した。これは日本人には当てはまらない。内臓脂肪を基盤とした腹囲基準を検討することになり、私が担当者となった。内臓脂肪面積が大きくなればなるほど高血糖、高脂血症、高血圧の危険因子の合併が多くなっていた。内臓脂肪面積と腹囲は相関しており、内臓脂肪面積が100平方cmに当たる腹囲は女性で値が大きくなっていた。女性では皮下脂肪が多いため同じ内臓脂肪面積では腹囲が大きくなる。

 1998年9月22日の厚生労働省班会議(松澤班)で内臓脂肪蓄積の基準値について、私はCTスキャンによる測定では内臓脂肪面積100平方センチを、簡便な腹囲による方法では男女とも88cmを提案した。WHOのように男性と女性で分けるのなら腹囲は男性86cm、女性92cmとした。

 1999年全国34施設で調査が行われ、1999年12月13日の肥満症診断基準検討委員会で内臓脂肪面積基準は男女とも合併症が増える100平方センチ、腹囲基準は内臓脂肪面積100平方センチに当たる男性85cm、女性90cmが提案され、採用された。

 基準値はあくまで目安である。これ以上だから病気、未満だから健康というものではない。腹囲が数cm減少すれば代謝異常は改善する。腹囲が増えつつあるのか減りつつあるのか、気にすることが最も重要なことなのだ。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
目でみる臨床栄養学 UPDATE
メタボリックシンドローム

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