早寝早起き朝ごはん運動の落とし穴

2007年3月30日

 2007年3月29日の朝刊2面にわたり「健やかな子供に広がる早寝早起き朝ごはん運動」の特集記事が載っている。肥満専門家の目から見ると、大きな落とし穴が存在する。

 文部科学省は2006年4月から、主に小学生を対象に基本的な生活のリズムを向上させるため「早寝早起き朝ごはん運動」に取り組み、フォーラムを行っている。

 香川靖雄女子栄養大学学長は「朝食をとらない人が増え、不規則な生活から幼児の自閉症、学童の意欲低下、生徒の非行、中高年の生活習慣病が増加している」

 神山潤東京北社会保険病院副院長は「早起きをし、毎朝しっかり朝日を浴び、朝食をきちんと食べ、昼はたっぷり運動し、テレビはけじめをつけ時間を決めて見る」

 有馬朗人早寝早起き朝ごはん全国協議会会長は「早寝早起き朝ごはんと学力は相関を示す。家事の手伝いをする子供は道徳観、正義感が家事手伝いをしない子供より勝っている」

 陰山英男全国協議会副会長は「早寝早起き朝ごはんは子供の学力低下、子供の生きる力にかかわる大本命の課題」と述べられておられ、いずれも感心する内容である。

 「早寝早起き朝ごはん運動」は私も大賛成である。しかし、非常に重要なことが欠落している。それは、これまで朝ごはんを食べなかった子供が朝ごはんを食べると、朝食を食べた分だけ摂取エネルギーが増加し、肥満児が増える恐れがあることである。

 朝食摂取を開始する時には、1日の朝食分のエネルギー摂取を減らす、つまり夕食か昼食を減らさなければならない。間食や夜食を摂っている子供だったらそれを減らしてもよい。

 米国では脂肪摂取量が多いことが肥満の大きな要因とされた。そして、国を挙げて脂肪/炭水化物の摂取比を下げ、バランスのよい食事をする運動がなされた。しかし、脂肪摂取量はそのままで炭水化物の摂取量が増えたため、1日の摂取エネルギーは増加し、肥満が激増し大失敗をした。

 肥満専門家は「夕食や昼食はそのままで、朝食だけ増やせば太る」ことをよく経験している。朝食をとりはじめる時には、同時に1日の摂取エネルギー量を減らすことが重要だ。

 囲碁でも将棋でも1手、手順を間違えると形勢は逆転する。何を先にするか手順は大事なのだ。米国の愚を繰り返してはならない。

 未来ある子供達が肥満児から、将来メタボリックシンドローム(内臓脂肪蓄積、糖尿病、高脂血症、高血圧)にならないことを願い「老馬の知恵も役立つ」こともあろうかと筆を執った。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
目でみる臨床栄養学 UPDATE
メタボリックシンドローム

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