自動車依存社会とメタボリックシンドローム

2007年3月22日

 車社会の進展とともに肥満が増加したことは国内外で認められている。 OECD(経済開発協力機構)による外出時の自動車依存比率は、日本の43%に対し米国84%、カナダ74%、英国62%と高い。米国、英国では他のヨーロッパ諸国や日本に比べ肥満の頻度も高い。

 肥満は過食と運動不足が2大要因である。各国の1人1日当たりのカロリー供給量と自動車依存比率により各国の自動車要因比率を求めると、米国の自動車要因比率は58.7%で、運動不足の要因の方が大きい。英国を除く欧州諸国では自動車要因は40~45%と過食の要因の方が大きい。日本は49.9%と過食と運動不足による要因がほぼ同じになっている。

 厚生労働省の調査では内臓脂肪面積が100cm2以上、BMIが25以上の内臓脂肪型肥満男性は、交通手段として自動車をよく使う人が正常体重者に比べて1.67倍と有意に多くなっていた。自動車を使う人は歩くことが少なくなり、肥満になると考えられる。

 私達は各県別の肥満の頻度と自動車保有台数との関連について、45,744人を対象に検討した。都会には自動車は多いが人口も多く、駐車場も確保できないので一人当たりの自動車は東京0.39台/人、大阪0.44台/人と全国平均の0.60台/人に比べ3分の2と少ない。県民一人当たりの自動車保有台数は東京、神奈川、埼玉、千葉の南関東や大阪、兵庫、京都の京阪神地区で少なく、これらの都府県では肥満の頻度が低くなっていた(徳永、他.肥満研究9:64,2003)。

 都会で肥満が少ないのは電車・地下鉄・バスなどの公共交通手段が発達しており、地下鉄の乗り換えなどで歩く距離も多いためだろう。

 私は伊丹から高槻に通勤している。朝7時17分の伊丹市バスに乗る。土日のバスは空いているが平日朝のバスは満員だ。バスは電車と違い交差点でよく曲がる。つり革を支点に両足を踏ん張ってバランスをとる円運動は、老後の転倒予防に役立ちそうだ。バス通勤も無駄ではない。

 8割の人は阪急伊丹駅を素通りして12分でJR伊丹駅に着く。時代とともに街は変わる。JR伊丹に大型ショッピングセンターができて、賑わっていた阪急伊丹周辺の商店街は歯抜けになった。

 JR伊丹駅から16分で大阪駅に着くと乗客がどっと降り、高槻市JR摂津富田駅まで24分間座っていける。外の景色を眺めながら、A4用紙に医学雑誌など原稿のキーワードや、気に入った表現を書いていく。電車通勤すると片道2500歩になる。電車・バス通勤も楽しい。

 自動車ではなく電車、バスなど公共交通手段を利用することは、地球温暖化防止、大気汚染防止、渋滞緩和とともにメタボリックシンドローム対策にも有用だ。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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メタボリックシンドローム

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